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1987年世界選手権 種目別 (by visitor_1さん)

出場選手:ビアンカ・パノバ、アドリアナ・ドナフスカ、エリザベット・コレバ (BUL)、マリーナ・ロバチ、アンナ・コチニエバ、タチアナ・ドルチニーナ (USSR)、アンドレア・シンコ (HUN)、マリア・ロレット (ESP) 他

ブルガリアのヴァルナで行われたこの大会、パノバ選手が全種目満点で制覇したという印象ばかりが強く、他の選手、またブルガリア以外の選手についてはただ影が薄かったのでは、と思っていたのですが、実際に見てみると様相は随分違いました。どの種目においても表彰台の最上部に2人の選手が立っていて、3種目では2人目の選手はソビエトの選手であったことにもそれが象徴されています。

やはりこの時代も激戦、そしてとくにブルガリア、ソ連はどの選手も素晴らしかった。それだけにこの大会を全種目満点で制したパノバの業績には、改めて驚かされます。
演技の前には出場選手たちが並んで、紹介されると両手を斜めに広げて演技者らしい挨拶をするのですが、そのやり方にも選手の演技の特性が表れているようで興味深かった。
例えば、手先の繊細な表情が明らかに他と一線を画しているパノバ、さっと進み出て堂々と、でもさりげなくさっと挨拶しているが、顔や手先の表情にちょっと茶目っ気というか照れたような部分もあるロバチなど…

最初の種目、ロープでは、ドナフスカ選手がパノバと同点優勝を飾っていました。スピード感もさることながら、ここでは縄の操作の巧みさが目に付きました。縄の一方の端をもってUの字状に回し、それを床に打ちつけて回転方向を変え、更にそれを動かしながらIの字状に伸ばすといった操作が滑らかに行われていてさすがでした。パノバは思っていたよりもたくさん、せわしないまでに動いていて、そこが面白かった。もちろん音楽(ギター曲でしたがギリシャ民謡か?)と調和していて、操作も多様でさすがでした。

でもこの種目でびっくりしたのはソ連勢。ロバチ、コチニエバの両選手は透明感のある「クラシックバレエ」的な美しさを備えていて、その動きがの美しさは手具操作によって妨げられることなくなめらかに続いていて素晴らしかった。これは他の手具にも言えるのですが、(ビデオでは)ここで初めて目にしただけに、その分だけ印象が強かったです。ロバチはちょっと特異な感じの化粧を含め、どこか人形を思わせる風情があったのですが、それがちょっと個性的な動きとあいまって素晴らしかった。個性的な動きはのちのベラルーシ出身の選手たちにも引き継がれているのですが、そんな中にも動きの美しさ、透明感を失っていない点で、後の選手たちとは明らかに一線を画しているように感じられました。

そしてコチニエバ。本当に手具の操作が巧みで、多様。手具の動きが面白く感じられ、更にそれがスムーズで動きも美しく最高でした。どちらもミスがなければブルガリア選手と並んで表彰台の最上部に立っていたことでしょう。この種目は選手によっては手足のあらが目立って見えたりして、案外体の線が目立つ手具のなのだと感じられたのも興味深かった。

フープ。先ずなんといってもパノバが素晴らしかった。ハーモニカの独奏(メロディーのみ)にアレンジされた「月の光」なのですが、輪の回転面の扱いが素晴らしく、粗やぶれ、引っかかるような部分が全く感じられないのです。この大会での彼女は、楽しさを強調した演技が多かったのですが、唯一の静かな曲で、多様な操作を美しさの中に溶け込ませていて最高でした。きっと最高の演技、構成の一つだと思います。4位に終わったのですがドナフスカも非常に良かった。ドラムのロールと決めの一打が繰り返される曲なのですが、動きの決め、アクセント、技が見事なまでに曲と一致。輪をさっと立てて見せたり、ブリッジして見せたりと、その瞬間的なアクの強さが印象的でした。ドラムの音質と動きの質感も相性が良くて、演技と曲のマッチングが震えが来るほど見事だった作品でした。彼女の最高の構成の一つではないでしょうか。ロバチは動きの美しさに加え、技の決めが非常に映えていたのが印象的でした。輪を受けた瞬間に腕が伸びているのではと感じられるほどでした。この種目でパノバと並んで優勝していました。個人的にはロバチ以上に印象的だったのがコチニエバ。輪の操作が多様で巧み、しかもスムーズで素晴らしい。技も独創的で、しかし首での受けのようなやる人によってはグロテスクになりかねない動きも、難なくスムーズに流麗な動作に溶け込ませていて驚きました。現在の選手で言えば、チャシナがこれに最も近い存在かもしれません。全般に輪の操作の面白さが様々な個所で見られるのが嬉しい競技でした。

クラブは個人的にはパノバの独壇場という印象でした。楽しく、次々に投げ受けが展開されるのですが、華やかで操作も多様。バランスをしていてもそこにちょっとした(しかし難しそうな)投げ受けが織り込まれていて、見ていて本当に楽しい。本当に何もしていない瞬間などないのでは、と思えるほどです。コチニエバが同点優勝していました。ロバチとコレバはミスがありました。この手具では選手の個性の違いが如実に現れているのが興味深かったです。ひたすら動き回り、かつ手の中でぐるぐるクラブを回しつづけるエネルギッシュなロレット選手、かと思えば、手具をほとんど回さず、体も余り動かさない静のイメージのコレバ選手、投げ受けが次々に飛び出すパノバ選手、あくまで動きの流れの中に技を組み込んでいる感のあるソビエトの選手、などなど、その多様性には目を見張りました。

リボンでは、ドルチニーナ選手がパノバと同点優勝していましたが、まるでゴムまりが跳ねているかのように(本当にそう見える)動き回っていて、そのエネルギッシュさにびっくりしました。でもやはりここでも素晴らしかったのはパノバ。曲はややスローテンポのパートで始まって、途中からやや速くなって曲調も変わるのですが、その動きのタイミングが曲調にぴったりと合っていて、バランスからバランスへの切り替え、体の表情の変化、次々と弾むように踏むステップ(あの"ドナルドダック・ウォーク"を含め)、などが効果的に見ているものに働きかけてきて素晴らしい。これも彼女の最高の演技の一つに数えられると思います。
コレバの演技は異色で、唸らされました。単にソビエト風、というのとも違う、決して無理に体を動かさないかのような、静の演技。投げの後、シュネ・ターンを1回しただけで次にはもう両手を上のリボンに向けて掲げるなど、動きや技を連発するでもないその演技は、クラブの時には物足りない感じもしたのですが、このリボンではそれが一つのムードを形作っていました。そしてその分、ゆっくりと連続で行われるMG姿勢からの起き上がりやさっと行われるバランスの決め、投げ技など、動きの一つ一つが意外とも言えるタイミングで繰り出されて、そのつどはっとさせられて印象的に感じられました。低い位置からロケットのように発射されるリボンの投げも印象的(これはパノバも使っていました)。さらに空間に描く蛇形が、こんなに魅力的に感じられる選手は少ないのではないでしょうか。

更にロバチ。こわれかけた廃人ロボットのような動き、待ちのポーズで時間をカウントするように片足で時を刻む動き、急ぎ足からいわく言いがたいポーズをつけたゆっくりした歩きと、次から次に何がでてくるのかわからないその演技は、変な表現ですが昔見た粘土人形のアニメーションのような面白さ。後のベラルーシ選手に引き継がれていくような奇妙な動き・表現が満載です。それでいてあざとくなく、見ていて本当に楽しめます。ブルガリアの観客も大熱狂でした。コレバ選手と共に、ミスが無ければ表彰台のトップにいたことでしょう。これも屈指の傑作だと思います。

以降の大会との違いという点で感じた面は、技がまだ大技化しておらず、その分細かい操作や連続技による動きへの表情付けが可能であったということです。私は'89年の世界選手権種目別の演技をよく記憶しているのですが、ドナフスカやパノバを見ていると、例えば後ろ足でけった輪をそのままキャッチしていたのが、前転してから反ってキャッチするように変わるなど、'87からすると技が大技化しています。その分、クラブでパノバが見せたようなバランスしての背面での投げ受けのような操作は減ってしまった気がします。'89は、投げ技、身体動作、表現としての遊びの部分などが分離していく第一歩だったのかもしれません。また、ソビエト選手に「クラシックバレエ的な美しさ」を持った選手が多く見られたのも、この時期あたりまでだったのかもしれません。技を組み込んでも、奇妙な動きをしても、決して品格を失っていないというのか…もっともこれは選手、手具を問わず見られる特徴のため、見慣れてしまう部分もあるのですが。しかしロバチ選手は動きの個性で、コチニエバ選手は多様な手具使いを溶け込ませる巧みさで、他と一線を画していた気がします。この大会を見て、この2人(そしてコレバ)がお気に入りの選手に加わりました。

採点としては、ソビエト、ブルガリアの選手は演技の持ち点が10点となっているようで、ミスが無ければ10点が出ているようでした。オリンピック後に採点基準を変更しなければならなかったのも分かりますが、失われたものを考えると、何かもっと別の方向が無かったものかとも考えさせられます。

まだ選手によっては、ジャンプ時の開脚が180度に届いていないケースがあったり、グリッサンドをやたらと多用するピアニストがいたりなどの微笑ましい部分も含め、新体操が技術と共に何より芸術性を追求していた時代の香りを、存分に楽しめた大会でした。観客も素晴らしい演技には国籍を問わず熱狂的に反応していて、そこも嬉しかったです。
(01/06/24)

>> 戻る Last Update : 2002/05/16